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アンパンマンパンから考える“再翻訳”のアイデア

アンパン(食品)→アンパンマン(キャラクター)→アンパンマンパン(食品)

小さいころ、親にアンパンマンパンというものを買ってもらった記憶がある。イトーヨーカドーのパン屋で売られていた、アンパンマンの顔を模したパン。鼻の赤い部分にはイチゴジャムが塗られていて、中にはチョコが入っていた。

でもよく考えると、アンパンマンはそもそもパンだ。つまり、パンを擬人化したものを、再びパンに戻している。

ここで注目すべきは、そのまま元通りにはなっていないということだ。アンパンはふつう無地だが、アンパンマンを経由することでアンパンマンパンにはキャラクターの顔が描かれるようになり、それどころか、もはやアンパンですらなくチョコパンに変わってしまっている。

再翻訳メソッドは面白い

昔(ざっと調べた感じでは00年代中頃?)ネットで流行した再翻訳という遊びがある。

おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな桃が、どんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。

↓英語に翻訳

When the old lady washing in the river, a big peach came flowing dolphin, dragonfly.

↓日本語に翻訳

川で洗う老婦人が、大きな桃がイルカ、トンボを流して来た。

https://translate.google.co.jp/

Google翻訳やエキサイト翻訳などのサービスを使って、日本語の文章を外国語に翻訳し、それを再び日本語に翻訳する。すると、元の文章とは似て非なるテキストが生成され、場合によっては全く別の意味に変わってしまう。

これを踏まえると、アンパンマンパンも再翻訳であると解釈できないだろうか。食品をキャラクターに翻訳し、そこから食品に再翻訳することで、オリジナルからのズレが生まれ、それが面白さになっている。

まあ深く考えると両者の面白ポイントは少し違うところにあるのかもしれないが、いずれにせよ、変化させたものを戻すという再翻訳のメソッドは文章だけでなく他のものにも適用できるということである。どんなものでも、再翻訳ができれば面白くなるかもしれない。

再翻訳による作品

再翻訳が面白さを生むことが分かったところで、この仕組みで解釈できる作品を紹介する。

本当に乗れるチョロQ(車 → 玩具 → 車)

玩具の中には、実際には大きいものをミニチュア化して手元で遊べるようにした製品がある。例えば、車を模したぜんまい玩具のチョロQ。これを再翻訳すると、「本当に乗れるチョロQ」というアイデアが生まれる。

動画の「Qi」は、タカラが設立したCQモーターズという会社が製造していたものらしい。チョロQの丸っこさがあってかわいい。

本当に建っているシルバニアファミリーの家(家 → 玩具 → 家)

シルバニアビレッジ

http://www.grinpa.com/sylvania/attraction/akaiyane.html

ドールハウスも、実際には大きいものをミニチュア化した玩具だ。静岡県にある遊園地「ぐりんぱ」にあるシルバニアビレッジでは、シルバニアファミリーのドールハウスを再現した家に実際に入ることができる。

3次元空間を絵画のように見せるアート(3次元 → 2次元 → 3次元)

絵は、3次元を2次元に翻訳したものといえる。それを3次元に再翻訳することで独特な違和感が生み出される。Alexa Meade氏の作品は、人や物にペイントすることで3次元空間を絵画のように見せている。

絵の中に入ったかのようなカフェ(3次元 → 2次元 → 3次元)

韓国の延南洞にある그림속작은카페は、日本語にすると「絵の中の小さなカフェ」。輪郭線を強調したデザインに統一されており、立体と平面の境目が一瞬分からなくなる。

子供が描いた絵を写真で再現するアート(3次元 → 2次元 → 3次元)

Wonderland 絵

Wonderland 写真

https://www.cobosocial.com/dossiers/yeondoo-jung-inventing-realities/

Yeondoo Jung氏によるWonderlandというプロジェクトでは、子供が描いた絵を3次元に再翻訳している。虚構と現実の境目のような写真だ。

最終的に写真(2次元)になっているので、その点では再翻訳というより再々翻訳というべきかもしれない。

有名な芸術作品を写真でリメイクするプロジェクト(3次元 → 2次元 → 3次元)

Remake photo project 絵画

Remake photo project 写真

https://www.booooooom.com/2011/10/04/remake-submissions-part-vi/

カナダのアート・プラットフォームであるBooooooomがAdobeと開催したRemake photo projectは、有名な芸術作品をリメイクした写真を募集して大賞を決めるというもの。忠実な再現を試みているものだけでなく、要素を別のものに置き換えている作品もあり、パロディ的な楽しみ方もできる。

再翻訳を使ったアイデアを考える

すでに“翻訳されている”ものを探すことができれば、それを再翻訳することで面白いアイデアが浮かぶかもしれない。

前述した「本当に乗れるチョロQ」のように玩具を軸に考えてみると、例えば携帯電話型の玩具を改造して本当に電話機能を実装するとか、本当に変身する変身ベルトとか、子供銀行券が紙幣として流通する国家とか、実現性はともかくとして色々な発想ができる。

別のものに変えるという点ではリサイクルというジャンルも良いかもしれない。ペットボトルをリサイクルしてできた服を、再びペットボトルに“リ・リサイクル”するとか…環境をテーマにしたアートとしてどうだろうか。

現実 → 仮想現実 → 現実、という再翻訳メソッドで、テレビゲームのコントローラを操作すると実際に人が動く「リアル格ゲー」や、VRChatのアバターを再現したコスプレで集まるリアルイベントがあったら話題になりそう。見たいような見たくないような…。